

ソニー前CEOがベンチャー育成に挑む
ベンチャーこそ、ルールブレイカーたれ
SBIホールディングス株式会社 代表取締役 北尾 吉孝
―北尾さんは、ベンチャー企業に投資する時、どのような点で会社を見極めるんですか?
―人物のどこを見るんですか?
北尾:人物を見極めるのは非常に難しい。でも一つ言えるとしたら、直感ですかね。第一印象から来る直感。なんとなく胡散臭い人だとか、誠実そうな人だというような直感ですね。「論語」の中で孔子が、人を見抜く方法として「視・観・察」の3つをあげています。「視」とは、その人の行動を観察すること。「観」とは、その人の行動の動機を調べること。どういう動機でその人はそういう行動を取るのか。そこを把握する。そして最後の「察」とは、その人がその行為に満足しているかどうかを知るということ。
つまり、まずじっくりとその人の行動を観察し、その上でその行動の動機を考える。そして最後に、その人の終極の目的が何だったのかを考えてみる。起業家の場合だと、特にこの「観」が大事ですね。つまり、なぜ起業したのかということです。世俗的な成功のために会社を起こしたのか、それとも世のため人のために会社を起こしたのか。この違いは大きい。
成功する起業家は、みんな”志”を持っている。”志”は、”野心”とは違う。野心は自分自身のためだけで、志というのは世のため人のためなんです。志をきちんと持って、人間的魅力がある人なら、能力的に優秀な人でなくても起業家として成功できます。なぜなら有能な人材が、その志に共感して自然と集まってくるからです。だから起業家に一番大事なのは、純粋な志を持っているかどうかということです。

―なるほど。起業には、ビジネス上の表面的なテクニックではなく、”志”が何よりも大事だと。
だから何よりも大事なのは、その人が正しい考え方を持っているかどうかということ。昨今の村上さんや堀江さんは考え方が間違っていたから、結果も大きなマイナスになってしまった。つまり社会に大きな迷惑をかけてしまったんです。彼らは能力と情熱が大きかった分、社会に対するマイナスもすごく大きなものになってしまった。最近のベンチャー企業の経営者の中には、比較的うすっぺらい、倫理的な価値観が欠如した輩が多いと思いますね。そんな人は起業家として絶対に成功しないし、成功させてはいけないんです。
やはり起業家なら、世のため人のために会社を起こし、正しいことをする人物でないといけません。ドラッカーも、「経営とは、人を通じて正しいことをすることだ」と言っています。まさに至言ですね。ビジネスモデルが優れていることは言うに及ばず、事業の根幹となるのは、やはり経営者の”徳”以外の何物でもない。そこを忘れてはいけません。
―最近ベンチャーと言うと、すぐにお金儲けのイメージに直結している気がします。
―なぜ無くなったのですか?
近代日本資本主義の父とも呼ばれ、生涯で500社以上の会社を創った渋沢栄一氏は、”右手にソロバン、左手に論語”と言っていました。常に倫理的価値観を持ちながら、一方で科学的経営も同時に実践することの大切さを説いていたんです。最近のベンチャー経営者と呼ばれる人たちの中には、”志”を自らの”野心”と履き違えて、勘違いしているような輩が多い。そんな経営者は、本物の事業経営者とは呼べないと思いますね。
一時期、堀江さんが世の中で脚光を浴びた時がありましたが、僕は本当に信じられなかった。マスコミも財界も、こぞって彼を持ち上げた。日本中が狂っていたとしか言いようがない。僕は彼がやったこと、例えば1対100の株式分割などは、本当に許せない行為だと思っていましたから、証券市場の清冽な地下水を汚す行為だと思って、義憤を覚えずにはいられなかった。だからフジテレビ買収話の時、僕は立ち上がったんです。しかし、僕が立ち上がった意図は、マスコミを通じて世の中の人には全く理解されなかった。今の日本の精神文化のお粗末さにはビックリしましたね。
最近の日本のテレビ番組は、子供向けの暴力番組など本当にくだらないものばかり。一億総白痴化への道を歩んでると思います。またニュース番組では、実の親が子供に虐待するなんていう信じられないニュースが流れる。そんな親を生み出したのは、日本の教育がダメだからです。人としていかに生きるべきかを教えていれば、そんな親になることなんてないでしょう。
―話は変わりますが、ソフトバンクの孫社長については、どう思われますか?
しばらく沈黙した後に続けて、「で、どこに行くの」と聞かれたんで、「ソフトバンクという会社に行こうと思っています」と僕は言いました。それを聞いた伊藤さんは、「あっ、孫君のところか。それならいいね」と。「ご存知なんですか?」と聞くと、「孫君は天才だよ。でも、重大な欠陥があるんだよ」と伊藤さんが言う。
僕は思わず、「欠陥とは何でしょうか?」と聞きました。そして伊藤さんは、「孫君は事業欲が強すぎるんだよ」と言われたんです。さらに「まあ、北尾君なら孫君を止めることができるかもしれない。いいコンビになるよ」とも言われました。はじめ伊藤さんが言われる「事業欲が強すぎる」の意味がよく分かりませんでしたが、入社して2ヶ月もしないうちにその意味が分かりましたね(笑)。さすが伊藤さんです。その慧眼には驚きました。ダイエー創業者の中内さんもそうでしたが、どんなに商売の天才でも、事業欲が強すぎて、晩年まで事業をして失敗するケースもある。孫さんも“止まるを知る”、“足るを知る”ということが鍵になると思いますね。
―最後に若い読者にメッセージを下さい。
設立 | 平成11年7月8日 |
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資本金 | 542億2,910万9,209円 |
従業員数 | 1,375名(連結ベース:2006年9月30日現在) |
事業内容 | 株式等の保有を通じた企業グループの統括・運営等 |
URL | http://www.sbigroup.co.jp/ |
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